網羅的な腸内・口腔内細菌叢解析から食生活と病気が見える
森田英利先生
森田英利先生
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授
2015年第8回創健フォーラム「医療革命 メタゲノム解析の現状と将来」の講演から、
資料提供いただいた森田先生の講演の一部を掲載しました。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
腸内細菌叢と口腔内細菌叢との関連
従来、口腔内細菌に関しては、虫歯''や歯周病の原因として今尚研究し続けられています。
それから、口腔内細菌叢は宿主の免疫系からの影響のみならず様々な影響を受ける事から、生体をより理解するためのバイオマーカーになりうるものです。
また、細菌は、口を経ずして腸内細菌叢にはたどり着けない事から、腸内細菌叢の元になっている可能性が高いのではないかと考えられています。一方、昨今、腸内細菌叢の研究が進み、肥満や各種の疾病をコントロールしている事が明らかになってきています。
したがって腸内細菌叢を理解する事によって口腔内細菌叢についても理解できるのではないかと考えています。
そして、本日のタイトルにもなっている、食事が腸内細菌叢を維持、変化させているという事について説明していきたいと思います。歯科医学と一般歯科医療の谷間をうめるもの
—私の歯科医学の哲学ー
本稿は、1970年5月北海道大学歯学部における講演の概要です。
片山恒夫
只今ご紹介頂きました片山でございます。私が“日常どのような考えで臨床を行なっているかについて、できれば実例をあげて述べてみよ”というご依頼を受けました。
つまり過去35年間の臨床の内容と、それに対する考え方、いいかえれば”お前の行なった歯科医療のフィロソフィー、歯科医学の哲学を述べよ”ということでありましよう。この課題は、現在臨床学課、もうすぐ臨床実習に入られるあなた方に、実社会に行なわれているいろいろな医療の内容について、それがどのような考え方で実践されているかについて、よく見、よく聞き、よく考えて頂くことは、あなた方の将来に必ずや大きく役立つであろうとお考えになっていられるためだと思います。
実は、私も予々そのように思っておりましたので、この際私なりの考えを申し述べてみようとお引き受け致しました。
したがってこの機会を与えられたことに、感謝致しておりますが、さてこれから述べます(歯科)医療とは、(歯科)医学とは何ぞや ! !医哲学については、われわれの受けた専門学校教育では非常に不十分で、ほとんど学習しておりません。
しかし、歯科以外の多くの医科は早くから大学として教育されてきましたが、その(医科)大学においても、講座はもちろん置かれておりませんし、必修の課目としてもごく少ない大学だけにしか講義されていないように聞いております。この長い間の医学としては偏った教育、すなわち医療を科学するだけで、科学としての進歩だけに医療の進歩を求めた考え方、すなわち科学的進歩が社会の医療の進歩につながると考えた政策と、教育と、研究の結果は、学内ですら教わったことと臨床実習との問に、学生自身も理解しかねるようなずれとして表われ、実社会との問には、全く無関係と思われるほどの格差、断絶とさえなってきたものと思われます。
歯科医療と食生活改善
本稿は、1981年12月6日 生態学的栄養学研究会で講演した内容を要約したものです。
片山恒夫
要約
口腔疾患とその回復処置。
歯科医療に患者の食生活のあり方は直接的にかかわっている。
それでは歯科医療とは、楽しく食事ができるように回復させれば、それで十全なのであろうか。
多くの場合、疾患発生の原因を除去することなく、組織に不調和な人工物で補い機能を代行しているに過ぎないため、病因は温存され、不適切な人工物装着使用のゆえ、かえって病状は増強され、再燃再発は必定である。
口腔疾患の主な原因は、口腔常住細菌の異常増加・停滞による。
この歯垢の除去を局所病因除去方法として、適正なブラッシング(口腔清掃法)の励行の必要性を40年間提唱し続け、ようやく一般化した。
しかし根源は火食、軟食、高温飲食、甘味添加食品などの不完全咀嚼の食習慣にあるため、この食生活の改善こそが再発防止の決め手であり、また初発予防対策の重要な柱であることは自明の理である。
適正なブラッシングの励行を、治療に際して必須初動の処置として指導し定着させ、位相差テレビ顕微鏡を用いて歯垢の理解、認識を感動的に行うことで清掃法励行のモチベーションとし、食事改善についてはW.A.Priceの著書「食生活と身体の退化」を全訳自費出版し、貸出して食習慣の見直しの重要性を認識させる方法としてきた。
そして、できるだけ固いものを1口50回噛みができるほどに回復させ、精咀嚼を習慣づけ、再燃・再発の無い状態を獲得・維持することをもって治療の完成とする臨床医グループを拡大しようとしている。
しかしながら、食事の内容改善については不明な点が多い。
諸先輩の御教示により、老若男女すべてを対象とする歯科医療に、正しい栄養摂取の指導法が導入され得るならば、国民健康作り運動の最も基本的な役割を果すことができると考えている。Key word 必須初動準備処置 病原歯垢の除去 歯周組織に対する自然良能賦活療法
司会(大黒)主催者に誤算がありまして、これほど多勢御出席あるとは予想しなかったので、少しく不手際のあった点はお許し下さい。では次に片山先生の御講演を拝聴いたしましょう。開会の辞にも申し上げた通り、御紹介は御本人の口からと致しましたので、それをお含みの上お始め下さい。
ではどうぞ。シンポジウム
社会保険における歯槽膿漏症治療の問題点
片山恒夫
この資料は、昭和41年9月10日、第9回日本歯槽膿漏学会総会において、厚生保険局厚生技官、日本歯科医師会保険担当常務理事、東京都歯科医師会理事等の出席のもと行われたシンポジウムの中から、片山の発言箇所のみ要約掲載しました。
要約
- 診断を確実にし、適切な療法を行なうとともに、特に早期発見、早期治療が効果的であり大切であること。
- 患者に熱心、かつ懇切に歯槽膿漏症の本態と治癒の困難性を説明しに予後の良否は患者の自覚と家庭療法の適否に依って左右されることが極めて多いことを指摘し、患者をして治療に対し積極的に協力させることが大切であること。
- 歯槽膿漏症の治療には合理的な局所療法こそ最大の要素であり、これなくしては本症の治癒は望めないこと。
このように指針をみますと、治療に当って特に留意しなければならない点を三項目としてあげてあります。
指針として、膿漏症治療の真髄を簡明にそつのない表し方でまとめてある点では、誠に立派な出米ばえと感心いたします。第一項は、診断を確実にし、特に早期発見、早期治療が効果的であり、大切であること。
『診断を確実にせよ』しかし歯肉炎と膿漏症の鑑別にX線診断は認められません。
『早期発見,早期治療に留意せよ』早期発見は多くの場合、患者自身によってではなく、われわれによってなされる。あらゆる機会を利用して、この病気は進行しやすいこと、手遅れの場合は,治療が容易でないことなど、病気の本態を説明して、早期治療が効果的であり、大切であることを力説してはじめて早期治療の可能性が生まれる。このような患者教育なくしては、自覚症状の乏しい膿漏症の早期治療は、とても望むことは無理ではないでしょうか。
来院患者の主訴は異なっても、自覚していない歯周疾患があれば、歯科医の任務として勿論、注意を与えなければなりません。その注意に従って患者が治療を要求したのでは、主訴として未院したのでないからとて、保険治療が受けられないと云うのでは、注意するのは差し控えなければなりません。これでは保険制度のために、歯科医師としての務めを曲げなければなりません。
これと関連したことで、歯周疾患患者が,全患者数の二割ないし三割を越えると注意を受けるのが実情でありますが、二、三割ということは、重病者、発病者ばかりを対象にしたものでありましよう。これでは早期発見、早期治療の重要性を、指針が口先だけで謳っているということになりはしますまいか。
歯周疾患の有病率が80%前後であることは歯科医学の常識であります。有病者であれば早期に発見して、早期に適切な治療にかかるのが当然で、社会保険がその性格上,予防やリハビリテーションを除くという考え方を、ここに持ち込むことは間違いといえましよう。
第二項には、患者教育の必要性、特に患者白身の治療への積極的な協力と、家庭療法の実践が極めて重要であり、これらの成否が予後を左右する、と云っています。
即ち、合理的なブラッシングや各種の補助的な清掃賦活法を患者が正確に行なえるように指導するメインテナンス訓練が必要であります。これらの事柄を忠実に、正確に実践すれば、歯槽膿漏症の予後はまず安心できるものでありますが、これは文字で書くほど簡単にできるものではありません。近時の医療状況下では、全く至難の技といっても言い過ぎではないと思っています。
この必要不可欠、かつ、至難のメインテナンス訓練について、指導の技術、努力、時間、材料などの一切に、何の点数評価もなされていないのが実情であります。適確なメインテナンス訓練を省いた治療方法は、どの場合においても指針の示すように、予後は不良であり、無駄な処置に終るのは必然であります。ですから、保険医療の中でも、歯槽膿漏の治療を有効、効果的に推進させようとするのならば、このメインテナンス訓練と云う療法の一部面に対して妥当で十分な点数を組み入れなければ、決して実効は上らないと思います。
第三項は、歯槽膿漏症の治療には、合理的な局所療法こそ大切とありますが、全く同感であります。しかしながら、局所療法の適応の決定は画一的であるし、必要不可欠な療法が、多く欠除している現状といえましょう。
例えばP1やP2に対するスケーリングとメインテナンス訓練による治療、臼歯部の切除手術などは審査の対象にされるでしようし、永久固定、接触点の回復のためのインレー、アンレー、咬合調整のための歯列改善(Minor Tooth Movement)等の重要な処置は全く認められていません。
膿漏症の治療の点数が低すぎることもさることながら、少し頻度が高いとブレーキをかけられるにいたっては、適切な局所療法こそ大切であるという指針の精神が,現実には生かされていないことになりはしないでしようか。
そもそも医療は、われわれ医師の学問的良心と患者に対する人間愛に支えられなければならないもので、如何に診療報酬に矛盾があったとしても、医療の本質は歪められません。また、制度上の欠陥や不合理が、医療の在り方を歪めたり、進歩を妨げたり、しわ寄せを医師や医療機関の犠牲にしておくことは、早急に解決すべきであります。
教育や政治の立場にある先生方が、その改善のために、もっと積極的な努力を払っていただければ幸いであると考えますし、今までの「歯槽膿漏症は治らない」と云うような考え方が改められて、「歯槽膿漏症治療は再燃もなく治癒し、再発も少ない」といえるような保険治療が広く行なわれる日が一日も早く来ることを切望する次第であります。
噛む事と唾液の効用
第23回 片山歯研セミナー ( 箱根 ) 4日目
( H5. 6.13 ) の録音テープを書きとめました。
(平井)
「なぜ噛ませるのか」「なぜ噛むのか」をどのように患者に伝えていくのか
・・・改善してゆく、つまり社会改革です。それに前向きに努力することで、はじめて社会的健康が得られるということ。
歯医者がですよ! やっている側が病気なんですよ。
不健康なんだ。やっている側がまず健康でなければ、病人を治すなんてな事はチョットおかしな事ですよね。
気違いさんが気違いさんを治しにかかっているみたいな事で、両方とも変になるばっかりになる。
そのへんのところが一番もとで、まずこっちが精神的にも社会的にも健康でなきゃあいかん、という事。
これはあたりまえの事で、そうすると、くどいようですけれど、噛めるようにしてあげただけではダメ。
そこを十分噛んで、暮らしが定着するように迄が、医者の務めだと。
医者の義務だと、そういうように自分に厳しくオブリゲート(自分に義務を課す)してゆく。そうすると、有名な人になるということになる。
つまりノブレス、つまり通常「高貴な人、貴族」という意味ですが、この場合はそうではないんです。
つまり社会的に地位の高い人という意味ではなくて、ノブルというのはラテン語で「よく知っている」という意味ですね。
knowが語源で、つまり「知っている」から始まった字なんですから。
よく知っている人が、それだからこそ責任を果たしてゆく、という言葉ですね。
それを実地にやってゆくことになります。
だからどうしても自分に、そのキチッとしたものを持ってなきゃいかんという事になる。注 「ノブレス・オブリージュ」noblesse oblige:貴族は義務を負う
他人に多くを求め自らの権利を主張する者⇔自らに多くを求め自分に義務を課す者
で、よく噛ませる。